「遺言を作成しても争いになるケース」 第六回 

文/弁護士 竹中一真(LM総合法律事務所)

第6回 「遺言を作成しても争いになるケース」

1 ここ数年,遺言や相続というテーマで,セミナーなどで講演をさせていただく機会が増えています。そのようなテーマのセミナーには,財産を誰にどのように分けるかということに関心を持っていらっしゃるご高齢者の方々や,推定相続人であるお子様方が多く参加されています。高齢化社会が進行するなかで,市民の皆様の,相続対策(相続税の対策,相続人間の争いを防止するための対策)についての関心が高まっていることの現れかと思います。そこで今回は,相続対策の一つとして,遺言の種類について,ご紹介したいと思います。

2 遺言は,民法で要件が定められています。どんな文章でも,どんな要式でもいいというわけではありません。たとえば,手帳に「全財産は長男に相続させる」と書いていたとしても,有効な遺言にはなりません。また,パソコンを用いて「預貯金は妻に相続させる,土地建物は長男に相続させる,次男には何も相続させない」などと文書を作成し,印刷して署名押印しても,有効な遺言にはなりません。かかる記載からは,「作成者がそのような意思を有していた」ということを伺うことができるかもしれませんが,それだけです。生前に自分の財産の分け方について,しっかりと効力を持つようにしておきたいということであれば,民法に定められるとおりに遺言を作成する必要があります。

(1)自筆証書遺言(民法968条)
 自筆証書遺言は,遺言者が自筆で作成する遺言です。遺言者は,遺言の①すべての文章,②日付,③氏名を自分で筆記し,④押印をしなければなりません。自宅などで簡単に遺言書が作成できるというメリットがあります。対して,デメリットとしては,既に手の機能が衰えてしまい,ペンを持つことができない場合には作成することができない,筆跡の真似をすることができますので本当に遺言者が作成したものかどうか分かりづらいことなどが挙げられます。実際に,筆跡の微妙な違いから相続人の1人が偽造したのではないか,認知症が進行して遺言をする能力がないにもかかわらず言うなりに書かされてしまったのではないか,などと後日争われることもあります。

(2)公正証書遺言(民法969条)
 公正証書遺言は,公証人が遺言の証書を作成するものです。①遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し,②公証人が遺言者の口授を筆記し,これを遺言者と証人に読み聞かせ,又は閲覧させること,③2名以上の証人が立ち会うこと等の要件が定められています。最後に遺言者は,署名を求められますが,署名することができない場合には,公証人がその事由を付記して署名に代えることができます。公証人が作成するものですので,遺言の効力を巡る紛争になりにくいというメリットが挙げられます。デメリットとしては,費用がかかること,事前に公証人と打合せをしなければならず手続きが少し煩雑ということなどが挙げられます。私も,法律相談などでは,もしご相談者に余裕があるのであれば,公正証書遺言を作成することをおすすめしています。公証役場に出向くことができないときには,公証人が病院などに出張してくれることもありますので,あきらめることはありません。

3 上記のほかに秘密証書遺言(民法970条)や特別の方式の遺言として死亡の危急に迫った者の遺言(民法976条)がありますが,実務上あまり作成されないため今回は省略させていただきます。自筆証書遺言や公正証書遺言を作成しておけば,その遺言にしたがって,残された方々が財産を取得することになります。もちろん相続人以外のお世話になった方に財産を譲るということも可能です。ただし,民法には,兄弟姉妹以外の相続人には,遺言によっても侵害されない遺留分として,一定割合の額を受けることが定められており(民法1028条),要件を満たした遺言を作成したとしても,結局,遺留分を巡って争いになってしまったということも多いので注意が必要です。

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弁護士竹中一真 Shinichi Takenaka

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